Je t'aime comme la tombe.

フランス革命萌え語り。あとは映画と野球?ハムファンです。

東京展覧会探訪part.Ⅰ-マル秘展

用事があったので東京に行き、ついでにいくつか美術展を巡ることにした。東京にいくといつも私は美術館を訪れてはハンバーガーを食べている気がする。(ハンバーガーについてはまたあとで)ここでは始めに訪れたマル秘展について記す。建築や空間デザインなど全てが興味深かったが、特に私の印象に残っているものを挙げる。

まずは深沢直人のプロダクトだ。彼の手掛けた製品について、まず初めに思いつくのはINFOBARだ。2010年ごろに出たスマートフォン版をauのカタログで見つけた時、まだ小学生だった私は「携帯なのにこんなにおしゃれなんて」と驚いた。その後ガラケー時代のINFOBARを写真で見たときは、「もしこの時代に高校生だったら絶対これを持っていたのに」と悔しがった。(ガラケーが主流だがスマートフォンが普及しはじめたころの携帯カタログを見るのが好きだった。今ではどのスマートフォンも大体同じような見た目だが、あの頃の携帯デザインは特徴的なものが多かったと思う。(auの過去のプロダクトのページを見ていたらあの頃のわくわくした気持ちを思い出した。)

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また小学校の図工か中学校の美術かどちらかの教科書(よく覚えていない)の中でバナナなど果物の皮がそのままデザインされたジュースのパッケージを見たときには、そのようなパッケージがこの世に存在することに驚き、実物を見てできるなら手にしたいと思った。今回の展示でバナナのパッケージを見ることができたのは嬉しい再会であった。(手には取れなかったが)

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近年のElements of Life 生活分子系列という雑貨やインテリアのシリーズ?も気になった。いつかこのように統一されたインテリアの中に住みたいと思った。直線と丸のみが用いられ、黒一色というところが気に入った。元々ゴス的な意味で黒い空間に住んでみたいと思っていたのだが、近年はゴス系インテリアでありがちな装飾過多よりも、直線的なシンプルさに心惹かれる。

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それだけですでに完成したイラスト作品のようだったのがsuica改札機のデザインを手掛けた山中俊治のデザイン画だ。カメラのコンセプトアートにはロボットの頭部のような印象を受けた。また山中はいくつものロボットも手がけたようだが、そのコンセプトアートはそれだけでSFイラスト作品のようだった。

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実際に使ったことがある製品の制作過程として興味深かったのは、柴田文江によるカプセルホテル、ナインアワーズの構想案だ。ナインアワーズは数回利用しているが、極力文字が少なくピクトグラムが用いられた、雑然さとは程遠いシンプルな案内やポッドの近未来的デザインと寝心地の良さが両立している所が気に入っていたので制作過程を見ることができて良かった。基本的に私は直線的デザインが好きだが、近未来的要素(ナインアワーズで具体的に挙げれば白いプラスティック、照明etc.) が持つ適度な曲線には安心感を覚える。ナインアワーズの場合は「寝る場所」だから余計に快く思えるのだろう。

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ナインアワーズの魅力は文字の排除とピクトグラムやマークの使用によるシンプルさだと上に書いたが、この展示では数人のピクトグラムロゴマークのスケッチやデザイン画があり、それも興味深かった。(写真のピクトグラム原研哉東京オリンピックエンブレム案、ヘルプマークは永井一史)

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今回様々なデザインを見ることにより、私は

・モノトーンか、色があるなら1,2色

・曲線よりは直線、曲線でもできるだけ線が少ない方が好ましい

・雑然さを回避したシンプル

なデザインに心惹かれることを改めて自覚できた。パステルカラーより原色が好きなのも「できるだけ濁っていない方がいい」からで、黒を選んでしまうのも無難だからというより「一番我を突き通せる色」だと思っているからなのだろう。(世間では黒は無難だと思われているが、グレーや茶、くすんだパステルカラーの方がはるかに無難ではないだろうか。)

しかしその一方で私はナインアワーズのポッドや山中俊治のデザイン画のような、(SF映画などで見受けられる)無機物の中の有機的な要素にも強く魅力を感じ、ある種の安らぎを覚える。無機質の中の有機性という点では、ピクトグラムロゴマークも当てはまるだろう。それらは単純な図形、点や線だけから成り立っているにもかかわらず様々な事柄を意味し、時には躍動感を持ちながら人々の想像を掻き立てる。

つまり私は基本的に無機質なデザインが好きで、その上で時折現れる有機性に魅力を感じているのだろう。その事には完成された製品を見るだけでもある程度は気づいていた。しかし制作過程のデザイン画や構想スケッチ、企画書や設計書を見ることでそのような嗜好をより具体的に言語化して認識できたのではないかと思っている。

これまでもプロダクトデザインやロゴマーク、建築の完成品を見たり、デザイナーや作家たちの言行録や書籍には触れてきたが、構想段階の絵や図、メモなどにはあまり着目してこなかった。(「作者の死」ではないが、私は生み出される過程よりも世に出たモノや、それが周りに与える影響の方を重視していた) このマル秘展でモノが生み出される構想段階を知ることの面白さを知ることができたと思う。モノが産み出される思考の過程を辿っていくことは知的好奇心にとって良い刺激だと思った。


そして文学研究における、(大きな声では言えないが、これまで何の意味があるのだろうと思っていた)作家の草稿研究の面白さや意義も少し理解できた気がした。