Je t'aime comme la tombe.

フランス革命萌え語り。あとは映画と野球?ハムファンです。

本当は暗い文学キャノンの世界 (あるいはAO3のレーティング)

拙い英語でAO3 (Archive of our own, グローバルな小説投稿サイト) にたまにファンフィクを投稿している。ファンダム自体マイナーだしそれほど見られていないのだが、「いいね (kudos)」やコメントがつくと嬉しい。

このAO3に投稿するにあたってほぼ毎回頭を悩ませているのがレーティング/年齢制限だ。Pixivなど日本発の創作プラットフォーム(この呼び方で良いのか)はR-18 (あるいはR-18G)または全年齢かの区分のみだが、AO3は

General: 全年齢向け

Teen and up: 13歳以上

Mature: 16歳以上

Explicit: 日本のR-18と同義*1

の4つに区分されている。とはいえ、何をどれに指定するかは各投稿者の裁量に一任される。

いつも悩むのがTeen and upとMatureの間である。サイト公式の手引きによればMatureは「作品内容が成人向けのテーマ(性、暴力など)を含むものの、過激な成人向ほど過激な描写ではありません。だそうだ。

この前書いたファンフィクは「性行為の描写はないが、接吻や愛撫で陶酔する場面があるし死を(ある意味)軽々しく扱っているからTeenにするのは気が引けるなあ」と思い、Matureでアップロードにした。だがそのあとで読み返してみると、「子供の頃に読んだ文学の方がどぎつくないか?」と思ったのだった。

私の小学1年生の頃の愛読書はレ・ファニュの『カーミラ』だった。子供向け文学全集に収録されていたのだ。言葉遣いは平易に改められているものの、全訳と比較しても削除・大幅に改変されている場面はない。カーミラがローラに甘い言葉をささやきながら愛撫する場面もほぼ原文通り残っていた*2。血に満たされた棺の中に横たわるカーミラの身体に杭が振り下ろされ、断末魔をあげ彼女が消え去る結末は、一種の文学的原風景として今でも覚えている(つまり、ここもほぼ原作通り)。

また学校や公共図書館の「中学生が読むべき名作文学」リストにはエミリー・ブロンテの『嵐が丘』が必ずと言って良いほど入っていた。多分だが「教養として世界の名作を知っておこう」という意図が存在するのだろう。しかしながらこの物語は性的描写こそせいぜい接吻止まりだが、暴力、児童虐待、DV、監禁、etc. と後ろ暗い行為のオンパレードが続く。クライマックスに至っては墓暴きである。しかも内容やテーマを考えると、いくらティーンエイジャーが主要な役割を果たす物語だとはいえ中学生が読んで本当におもしろいのか正直なところ疑問である。

これらを考えると『カーミラ』や『嵐が丘』を「児童・生徒が読むべき本」として推薦リストに入れたいかと言われればイエスとは言い難い。

とはいえ、誤解してほしくないがこれらの本を大人向けとして年齢制限をかけるのは非常にバカバカしいと私は思っている。それにこの手のテーマに興味を持つティーンは、たとえ禁止したところでどのみち何らかの手段で入手するだろう。私だってサドやバタイユグランギニョル演劇の本を中学生の頃に読んでいた。もっとも、表面上のエロ・グロをなぞるだけで、思想の面白さが分かってきたのはもっと後になってからのことだったが(何なら、今もよく理解できていないまま読んでいる)。それに、仮にある中学生が『嵐が丘』を読んで「墓暴きウケるww」という感想しか持たなくとも、それはその時の感想として尊重すべきだ。私が言いたかったのは、一応「健全で愛に溢れた大人」の育成を目指しているはずの読書教育の場に、ダーク・ロマンティックな作品が紛れ込んでいるのはどことなく面白いということである。

よく考えてみれば、これ以外の多くの「正典文学」作品にも不貞や犯罪は頻繁に登場する。しかしこの2作は特に闇の美しさが濃いと思う。(というより、私が「墓場系文学」の愛好者だから特に印象に残っている)

それに推奨はされなくとも、高校までの現代文教育がエロ・グロ・アンチモラル的作品を一切遮断しているかといえばそうでもない。懐かしの「国語便覧」に渡辺淳一が紹介され、確か『愛の流刑地』か『失楽園』の簡単なあらすじが載っていたことを覚えている。とはいえ、夏休みの課題図書にこれらの作品を指定する教師はいないだろう。せいぜい中・高生に勧めるなら『阿寒に果つ』くらい...と思ったが、主題が高校生の(美化された)自殺に加え、中学生が大人と性的関係を持つ場面があるので昨今の情勢では許されないか。

話をAO3のレーティングに戻そう。

私が書いたファンフィクより『カーミラ』や『嵐が丘』の方がよほど淫靡でダークではないか。映画でも、この前見たPG12指定のリドリー・スコット監督『ナポレオン』なんて人が戦場で次々とミンチになり、主人公夫妻の性交も何も隠さず写っていたではないか*3。それに比べたら、私のなんてぬるいにもほどがないか。ある程度の性描写を期待して読んだ人が「Matureとあったのにこれっぽっちかよ」と思うのもそれはそれで申し訳ない。とはいえ、性行為を予感させる描写と命を軽視するとも取れない登場人物の思考など*4を踏まえると、なんとなくTeenにするのは気が引ける。

というわけでMatureにしたのだが、今でも答えは出ない。他のficやRedditTumblrを見てみても、結局共通認識すらなく個々人の裁量に任せられているようだ。

オチや結論はない。レーティングについて考えていたら、読書教育の場で推薦されるいわゆる「文学キャノン」ってけっこう後ろ暗い話が多いことに気づいただけである。

 

関係ない話。中学生のころやっていたブログとサイトをこの前見つけた。予想通り痛々しい。それでも当時の毎日が生き生きと記録されていた。IDとパスワードはまだ手元にあるので消そうと思えばできる。だがインターネット上を漂流する一人の記憶として残しておこう。

*1:自分の作品に関して、性器を扱う描写(およびそれに等しい行為)が言及されたらExplicitにしようと思っている。

*2:実家に帰ってもこの本が見つけられなかったのでオリジナルとの比較ができないでいたのだが、「東京大学百合同好会」のこの記事が相違点をまとめていた。確かにローラがカーミラを好きだった印象が強く残っていたため、オリジナルで彼女がカーミラの行動に対する嫌悪感を事あるごとに強調していたので違和感を覚えた。これには執筆当時のヴィクトリア朝の性モラルや女性像規範の問題が深く関係するのだろう(物語の時代設定は不明。ただしカーミラが「すべては神でなく自然の命ずるままに生きる」と言ってビュフォンにも言及するので、フランス革命近辺なのだろうか?)とはいえ、ジュブナイル版がローラの好意を強調していたと聞くと納得である。

*3:さすがにぼかしはかかっていただろうが、視力が良くないので気に留まらなかった

*4:(加えて作中では明示してないしそのあたりは多くの二次創作(私のは歴史創作だが)よろしくうやむやにしたものの、設定を考えれば不貞行為でもある)