Je t'aime comme la tombe.

フランス革命萌え語り。あとは映画と野球?ハムファンです。

2023年・私的ベスト映画5選

2023年は映画を見た一年だったので、印象に残った作品をまとめる。新作として映画館で見た映画に限った。また順位はつけたくなかったので、紹介順は順不同である。

私、オルガ・ヘプナロヴァー

この1年、いやこれまで見た映画の中で最も影響を受けた作品だ。初鑑賞後に映画館を出てから今まで、映像やオルガの目線,、個々のエピソードや言葉が心に焼き付いて離れることがない。特に夜の森の暗闇を車で走り抜ける彼女のシークエンスはある種の原風景のように私には感じる。同情や共感を拒絶する作風だとは思うが、それでもオルガの「上手く行かなさ」が我が身のように思えてしかたなかった。彼女があの行動に及び、私が(まだ)やっていないのは単に私の方が「運が良かった」からにすぎない。

音楽はほとんど使用されないが、それだけにイトカとデートしたクラブで流れたCollegium Musicumの曲が非常に印象に残った。

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Pearl/パール

ホラー映画だが、恐怖や不快感ではなくパールの辛さと諦めがひしひしと感じられた。牢獄か独裁国家のような実家から出たいと願うのは当然で、そのために結婚したのに叶わなかった失望は大きかったろう。夫が爆死する様を夢想しながらそれでも心から「愛してる」と言う事に何ら矛盾はない。腐ってウジの湧いてゆく豚料理が象徴していると思うが、仮にパールに元来「変」なところがあったとしても、それをここまで極端にしたのは母親の過度な抑圧ではないか。それだけに、自分が「おかしい」「変な人」ではないかと悩んだパールが自らを追い詰めていく様はいたたまれなかった。どこかで何とかならなかったのか、とやりきれない気持ちを抱いた。

テス (4Kリマスター版)

オリジナル公開は1979年なので「新作として映画館で観賞」に入れていいのか疑問の余地はある。それでも非常に心に触れたので入れることにした。ハーディの原作は英米文学の中で5本の指に入るほど好きだが、映像版も非常に素晴らしかった。冷静に考えればエンジェル・クレアは(自分の行動は悪いと認識し、責任を取ろうとする)アレック以上に酷い奴であり、小説以上に映画ではテスへの仕打ちに腹が立ってしかたなかった。だがテスは「アレックは嫌いでエンジェルを愛している」という自らの気持ちに正直に生きたのだろう。エンジェルと再会し、アレック殺害後二人で駆け落ちする場面には感極まってしまう。社会の「倫理規範」に従って一度はテスを拒絶したエンジェルが、他人の家のドアを破壊し殺人犯となったテスと愛し合う場面が印象に残っている。ストーンヘンジで眠る彼女を警察が発見し、「眠らせてやってください」と言うエンジェルと、目覚めたテスが「準備はできています」といい逮捕されるラストシーンでは、私にしては珍しく涙が止まらなかった。(原作でも、ここからラストまでの場面はいつ読んでも泣いてしまう)

野球どアホウ未亡人

前述の3作とはうってかわった不条理(?)ギャグ(?)スポーツ(?)映画。野球好きは一度は観て「野球とはなにか」「どうして我々は野球に惹かれるのか」考えるべきだと思う。「野球」には何をやっても許してくれる度量の広さがあるのだとしみじみと思った。(cf. 以前の感想記事

ロスト・キング

以前の記事にも書いたが、こちらは歴史好きが一度は見て「歴史人物を愛するとはなにか」考えるべき一作。リチャード3世の熱狂的ファンが主人公ながら、一方的に彼やリチャーディアンを称揚しないバランス感覚に好感を覚えた。「歴史に善人も悪人もいない」というメッセージは忘れずに心に刻んでおくべき。その上で「この人が好きでもっと知りたい、愛したい」という思いも大切にしたいと思った。私自身はイギリス史は全くもって詳しくないが、それでも史実と歴史モノの関係や、歴史を考える上でのルッキズムの問題は世界共通なことに唸った。派手なアクションやはっきりとした悲劇/喜劇性はないが、楽しく見られた作品だった。

 

今回は「新作として映画館で鑑賞した作品」に限ったが、名画座やサブスク、映像ソフトでも様々な作品を鑑賞しかなり満足している(特に見られてよかったのは「王妃マルゴ」「LETO」「ペット・セメタリー(オリジナル版)」「愛の嵐」。あとNHKBSでやっていたクリント・イーストウッドのアクション映画も好きです)。映画館関連だと名古屋シネマテークの閉館は本当に残念だったが、それでも跡地に新しい映画館プロジェクトが発足したのは嬉しい。

2024年も期待の作品はすでにいくつかリストアップしている。(「哀れなるものたち」「ラ・メゾン」「Winterboy」あたり)年末年始は忙しいのでいつ映画館にいけるか定かでないが、さて何から見ようか。