Je t'aime comme la tombe.

フランス革命萌え語り。あとは映画と野球?ハムファンです。

名古屋シネマテークの閉館に寄せて

名古屋・今池にあるミニシアター「名古屋シネマテーク」が閉館するという。私はこのニュースが報道された日に、知らないままこの映画館に行ったので余計衝撃を受けた。いやテレビ局のカメラが入ってゆくのは見たのだが、「新作映画の監督でも来たのかな」と思っていた。しかし実際は閉館報道だったのだ。

私にとってシネマテークは「かゆいところに手が届く」映画館だった。インターネットで見つけて「これ観たいけど、東京以外でやるのかな」と諦めかけていた映画や、封切り時に見逃して「やっぱりスクリーンで観たい」と思っていた映画、そもそも生まれる前に公開され映像ソフトが手に入りづらい映画も心を読まれているのではないかと訝しむくらいにいつもドンピシャなタイミングで上映してくれた。

初めて行った時は絵に描いたような「根っからの映画好きが集まっていそうな雰囲気の映画館」だったので思わず緊張してしまった。今では建物の階段を登る時、いや今池駅に着いた時から他の映画館以上に「映画を見るんだ」という気持ちが高まる。別件で今池に行った時すら映画をこれから見に行く気分になるほどだ。

シネマテークで観た中で一番印象に残っているのはなんと言っても『ロックンロール・ハイスクール』である。レンタルで初見時から大好きな映画だったから、スクリーンで観られると聞いた時には絶対に行こうと決めていた。案の定スクリーンで観たらすっかりハマってしまいもう一度観た。許されるなら大声で笑いたかったし踊りたかった。(マスク越しに笑い死んだ場面はたくさんあった。客席中爆笑の渦で、声は出さなくとも一体感に満ちていた)その時抱いた私の熱狂は以下の記事の通りだ。普段は買わないのに、あまりに面白かったのでTシャツまで買ってしまった。おそらくラスト1点でしまい込まれていたTシャツのサイズを出していただきありがとうございました。この夏はたくさん着ます。

他にも詐欺師と革命家の双子姉妹が主人公というだけで魅力的な『私の20世紀』や原作が大好きで、特にストーンヘンジの場面を映像で観たかった『テス(4K版)』も心に残っている。この小説の結末を読むたびに私には珍しく涙が止まらなくなるが、映画版でもエンジェルとの駆け落ちから涙がとめどなく溢れた。先日観た『私、オルガ・ヘプナロヴァー』はエンドロールからずっと、寝るまで一日中放心状態だった。だがもう一度観なければと思っている。今後上映予定の映画でも気になるタイトルが色々とあったので、なんとか時間の都合をつけて行きたい。

映画とはそれほど関係ないが、シネマテークで好きな点として椅子も挙げられる。ロビーもスクリーンの椅子も、柔らかく身体が沈み込んで非常に心地よい。映画が上映されていなければ眠り込んでいただろう。前述のように私が『テス』の結末で涙を流した時、椅子がやさしく受け止めてくれたように感じたこともあった。

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シネマテークの閉館理由の一つとして「映画配信が主流になったことで客足が遠のいた」ことが挙げられていた。しかし私はネトフリやアマプラを利用しはじめてから、逆説的に映画館に行くことへの価値をより重く認識しはじめた。家で簡単に映画を見ることができるようになる→より多くの映画を見るようになり、映画への興味や関心が増す→どうせならスクリーンで観たい という思考回路だ。また結局配信サービスを利用していても、観たい映画は配信にかかりづらいものばかりだった。かかる保証もないのだし、観られる時にスクリーンで観なければ。加えてコロナ・パンデミックも、私にとって映画館がより魅力を増したきっかけだった。特に「外出自粛」の頃は外出の価値が増したたので、映画館に行くこと自体が大切で貴重な経験となった。鑑賞記録を振り返るっても、映画館へ行く頻度は2020年以降増えている。しかしながら私のような人は少数派だったらしい。

そもそも私が札幌から名古屋に来て最も感動したことの一つが、映画館、特にミニシアターの多さだった。人口から見て札幌の映画館数が少なすぎるせいもあるのだが。ちなみにパンデミックで私は一時実家に戻っていたのだが、札幌で上映されなかったためスクリーンで観ることができなかったタイトルがいくつかある。名古屋に戻ればよかった。
しかし名古屋でもすでに名画座のキノシタホール(受験で諦めていたグサヴィエ・ドラン『たかが世界の終わり』をスクリーンで見ることができた!)も名演小劇場(私にとって最高のヒロイン・コクリコが登場する『まぼろしの市街戦』4Kや、2を付き合いで先に観てハマった『いつだってやめられる』三部作の1と3を無事見ることができた)もなくなってしまった。

シネコンでかかるような作品も好きだが、結局私の傾向としてミニシアター系の映画ばかり観てしまう。(もっとも、例えば最近の伏見ミリオン座/センチュリーシネマと名駅シネコン・ミッドランドスクエアの上演作品を比較すると、もはや作風や監督で「シネコン/ミニシアター」を分類するのは難しいとも思うが。)

だからシネマテークの閉館は私にとって一層衝撃的だ。「あの映画が観たい」という欲求を、私はこれからどこで満たせば良いのか途方にくれている。

私が映画、そして映画館をより一層好きになったのはシネマテークのおかげでした。本当にありがとうございました。少しでも多くスクリーンの椅子に身を沈めたいと思っています。